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中平卓馬

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カメラになった男ー写真家 中平卓馬

1960年代から1970年代における日本の急進的な写真の草分け的存在であった中平卓馬は、のちに深刻な健康危機に陥り、記憶と言語の能力の大半を失ってしまう。ここに紹介する、映像作家、キュレーター小原真史が2003年に手がけたドキュメンタリー作品からの抜粋は、病を抱えながらもその後何十年もの間、写真家であり続けた中平の日常と彼にわずかに残されていた記憶の片鱗を描く。

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カメラになった男ー写真家 中平卓馬

あ、落ちなかった。

私、毎日、ロングホープならずショートホープを吸い続けています。
それに即して言えば、撮影行為においては一挙に世界総体を把握することができず日々短い希望なのだが、それに依拠して、私、世界を全的に捉えることを願いつつ生き続けています。

1967年。夜景が多いね。これ偶然。はずみに偶然撮った。この人知ってる人かもね。プロヴォークやってたから…柳本?これ横浜。外人墓地。どこだったかな、これ?これ、自宅。これは東京湾。 撮るのが最初。写真集っていうより写真批評集だって言ってた。俺が書いたからね。初めて書いたからね。柳本じゃないかな?柳本尚規っていう、今評論家なんだよ。新宿駅だ。新宿駅地下街だ。子供?子供とすれ違って撮った。28ミリ。孤独出したい。夢の島。夢の島撮ったんだな、これ。川。28ミリで撮った。

中平:茅ヶ崎公園な。寝てる人。見てる。俺に写真撮られてるとも知らない。猫に見られてるとも知らないのね、この人。これ猫も、なんで目を向けてんのかというと、カメラ持って近づいても平気だったの。今はもう、知ってるね。違う猫でも、もう知ってるね。

小原:中平さんのこと?

中平:うん、写真家だってことを知って、逃げないね。

中平:黒兵衛も撮ったね。俺の息子。撮った、黒兵衛。

小原:黒兵衛?

中平:うん、可愛い。

中平:カサブランカと白い猫。カサブランカ、モロッコの。マンションがあったんだよ。こう走ってる時に、俺が走ってる時。

小原:早渕川沿いに。

中平:うん。ここに引っ越して。で、早渕川、この河原。大学の経営部の近くで、自転車で7、8分で越えられる。すぐこう行って右側にね、俺は走ってたのね。走って帰るときに、カサブランカっていうジュースがあったのよ。なんでカサブランカって言うのかなーって思って。買ってきたんだよ、俺。白い家って意味だよ?スペイン語で。だから睡眠薬使ってなかったの俺、走ってたから。 そこにカサブランカが無くなったんだよ、ジュースが。

小原:はい。

中平:今行った所だよ?こう行ったね?

小原:あ、今日行った所。

中平:うん、あの右側ね。渡ってすぐ右側の所。それが無くなったら、ジュースが無くなった。大きなマンションがあるの。ここはね茅ヶ崎公園っていう公園があるのね。ここにいたの。この猫がね。これが白い家っていう。なぜ変えたのかな?これ残したんだよ。だから、ジュース無くなってマンション。

「記録という幻影」って書いてあるね、日本語で。松永優事件。アルコール中毒症による逆行性記憶喪失と診断される。12月に退院、横浜の実家に移る。

写真集『新たなる凝視』を出したのね。1983年。倒れて、横浜で暮らし始めて。そしてその、『新たなる凝視』をめぐって「中平卓馬をめぐって 失語症と記憶喪失の時代の中で」と題した特集が組まれ、赤瀬川原平氏ね、横浜出身の。画家だったけど今写真家の。森山大道、東松照明。

こういう状況で、全部日本語で書けるようになった。

中平:森山が渋谷に変わって、よく会ってたんだよね。近いから。スペイン語してモロッコ行ったんだって。

小原:森山さんが?

中平:うん。1977年頃かな。行ったんだって。全部フランス語で。中平が言ってるようにライオンもいない。全部もうフランス語だったって。何も撮らないで帰って来たって。これ森山大道。写真は俺よりちょっと先なんだよね、細江英公の影響で始めたんだ。先輩なんだよね。東松照明に影響を受けて。それを彼が助けてくれたんだ、現像を白黒で、森山大道。

中平:これなんて言ったけな、この人。

小原:深瀬さん。

中平:深瀬さんか。そうか。

時計:午後零時12分ちょうどをお知らせします。

中平:ちょうどですね。そのままだ。

中平:日本語をね、喪失しちゃってさ。日記をその時書き始めたんだよね。

車内アナウンス:ご乗車ありがとうございました。逗子、逗子です。二番線に到着、出口は左側です。お手回品など、忘れ物ないようご注意ください。

中平:ここ撮ろうかね。

中平:すいません。

観光客:すいまんせんけど、ちょっとシャッター押していただけますか?すみません。

中平:いいですよ。

観光客:全員で撮ってもらおう。申し訳ありません。

観光客:ここ逆光だもんね。

観光客:どこがいいかしら?写りやすいのは。できれば海の方が良いけど、どっちでも良いです。映りにくい?逆光で。

中平:海ね。

観光客:こっちこっち!私たち。

中平:ああ、あなた達?

観光客:横の方が良いんじゃないかしら?

中平:横?

観光客:うん横向き。

観光客:できません?

中平:プロの写真家だけど、難しいよ。

観光客:あまり高級品だから難しいって。

観光客:住んでるんですか?

中平:横浜です、生活してるのは。

観光客:はい、すいません、ありがとうございます。

観光客:どうもありがとう。

観光客:すいません、ありがとう。

中平:私、小学校、下山口です。

観光客:ん?

中平:葉山下山口。

観光客:葉山小学校?

中平:そう!

観光客:葉山小学校なの?

中平:うん。

観光客:あの桜のきれいな。ああ、そうなんですか。

中平:そうそう、横浜から。

中平:どれ位かかるかな?あれが現像するまで。

小原:二週間位ですね。

中平:一週間。

観光客:はい、結構です。そしたらまたアメリカに送りますから。どうもありがとうございました。バイバイ。

中平:どうも。

中平:撮った。珍しいの撮ったね。外国人撮ったのは初めて。

葉山町。森山神社。今度行ってみるって言ってたんだよね。ずっと前。こんな神社あるの知らないって。行ってみるって。海岸沿いに行くんだ、つって。

森山大道とプロヴォークやってたときはブレボケ路線出してたんだよね。ウィリアムクライン。東松照明さんの写真で俺も写真やろうと言った時には、森山に教えてもらったら良いって。先に写真撮ってたんだよね。細江英公の影響で。「東照寺」は出さなかった。綱島駅。

黒い猫を貰って、男だから黒兵衛って俺は付けたんだ。居酒屋「黒兵衛」があったから。

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所蔵品 中平卓馬